第一章 春、舞い散るころ 1/2
はら、はら。
尽きることなく舞い落ちる桜の花びら。
千年桜と呼ばれる巨木が、校門を覆うようにそびえている。
実際の樹齢を知るものはいないが、開校以来ここを通る生徒たちを見つめ続けたことは確かだった。
この老木が一帯の「桜大路《さくらおおじ》」という地名のもとでもあり、ここ「桜大路学園」の校名の由来でもあった。
新学年を迎えた少女たちが、続々と老木の下を通っていく。
老木は「桜」という字が自分を表すことを知っていた。
そして、一人の少女が胸につけている名札にその字を見つける。
「桜井」という名札をつけた少女は、桜というよりも、草むらに埋もれて春先に咲く、名もよく知られぬ花のように密やかだった。だが、その花を見つけた人がするように、小さな春を見つけたような笑みを浮かべてしまう、そんな雰囲気をただよわせていた。
名を園美《そのみ》という。桜井園美。この春で二年生になった。
髪はシンプルなピンでサイドをとめ、耳はすっきりと隠れないでいる。髪はそう長くなく、肩に少しかかる程度で清潔感が漂う。
桜大路は制服であり、冬服は濃紺を基調にしたセーラー服だった。昨今、デザイナーの手によるデザインの制服もあるなか、旧来から変わらないスタンダードなもの。襟に桜の花びらを三枚あしらっているのが特色だといえる。
「おっはよーう」
園美に追いつく、弾んだ声。
「あ、葵ちゃん、おはよう」
横に並んだ少女は、園美よりも頭半分ほど背が高かった。桃谷《ももたに》葵、一年生のときは園美の同級生だった。
校門から校舎までは、ゆるやかな坂が長く続いている。そこを駆けてきても、葵は息ひとつ荒れていない。
葵はバレー部に所属し、スカートから健康的なカーブをみせる脚を伸ばしている。髪は短く、活動的だ。園美が野にひっそりと咲く花なら、葵は夏の空に突き伸びる、大輪の向日葵を思わせる。
「また一緒だといいんだけどね」
「うん、うううん? うーん?」
「嫌か。嫌なのか? 私と同じクラスが嫌か?」
「そうじゃなくて、番号の紙、あれ、どこいったかな」
桜大路学園では、学年ごとにクラス替えが実施される。
通常、学校でのクラス替えというものはクラスごとに偏りのないように、成績や生活態度、担任との相性などを考慮のうえ、細かに調整されることが多い。
しかし、この学園では前年度に番号を書いた紙を配布し、新年度の始業式に番号が張り出される形になっていた。
まったくのランダム編成であるが、もともと学力などに偏りの少ないこともあり、長らくこの形式が踏襲されてきた。
「園美のことだから、どっかしまいこんだんでしょ。失くすからって。それで忘れたんなら世話ないけど」
「そうなんだよね、きっと大切にしようと思って。待ってね、私、終業式の日に戻る」
そう言うと、空に向かってうなずいたり、手を動かしたりする。番号の紙を受け取ったときの再現をしているのだろう。
空から何かを受けとり、カバンから筆箱を取り出した。
「その中か」
「そうだ、そうだ、筆箱に入れたんだよ。あれ……固いな。ん、んん」
園美の筆箱は缶タイプのものであり、変な閉め方をしたのか簡単に開かなくなっていた。指を赤くして力をこめてもびくともしない。
「ちょっと貸してみ、うわ、ほんとに固いわ。だいたいあんた今どき缶ペンって、袋のやつにしなさいよ。んぐ、ぬぐぐぐ、ぐぐぐぐ」
「葵ちゃん、あの、無理すると壊れるかも」
「んがーーっ!!」
パッカーン
クラッカーを鳴らしたようないい音をたてて、筆箱は開いた。
ただし、まさにクラッカーのようにその中身も盛大に飛び散る。シャープペンシル、消しゴム、スティック糊、ビー玉などがしばし空を飛び、そして坂を転がった。
「あ、あわわわ、葵ちゃん」
「あわわじゃなくて、急いで拾う! あー、なんでビー玉なんか入れてんのよ」
「綺麗だと思って」
「綺麗だろうけどさ!」
二人は慌てて転がる文房具たちを拾い集めようとするが、散らばって転がっているので収拾は容易ではない。二人が駆け下りる速さより、文房具の速さが勝っていた。
その転がる先に、二人は意外な人物を見た。
『紅蓮様!』
風になびき、腰を撫でるように揺れるつややかな黒髪。柳の葉のような切れ長の涼やかな目。背筋を張った姿勢は、歩くだけで舞っているような印象を受ける。
紅蓮《ぐれん》と呼ばれた少女、藤原小夜はこの学園で特別な存在だった。
特別な存在はもう一人いる。白蓮《びゃくれん》と呼ばれ、その二人が学園の生徒会の会長の役割を担っていた。どちらも位としては同じで、それぞれに小紅蓮、小白蓮といった副会長的存在がある。小白蓮は現在のところ空位だったが、その四人とクラスごとの級長で生徒会が構成されている。
とはいえ、生徒会と名はなっていても、ほぼ白蓮・紅蓮の王政に近い体制ではある。
両蓮がカリスマ的な存在として畏敬の対象となっていたからだった。
外見的な美、そして人間的魅力において、圧倒的な力をもつものが、皆から推挙されて「蓮の方」となる。
あこがれでもあるが、近寄りがたくもある。いわばこの学園の王族だった。
小夜は、慌てふためく二人と、転がり落ちる物体を認めたようだった。
声をかけるべきか、かけるとすれば何と言うか、そんな逡巡が二人の脳内を駆け回る。
大名行列に飼い犬が吠えかかったり、王様の行幸に暴れ馬が突っ込んだようなものだ。しょせんは文房具、噛みも吠えもしないし、別に危なくはないが、無礼千万には違いがない。
次の瞬間、小夜は思わぬ行動に出た。
手にしていた鞄を横に置くと、地面に寝そべった。
手と足を伸ばし、道路に対して垂直に、まるで堰を作るかのように。
堰は、見事に役割を果たした。上流からの文房具を堰きとめ、文房具のものどもを鞄をふくめてその身体で止めたのだった。
やっと息を切らせて園美と葵が追いついてくる。
しかし、やはり言葉が見つからない。
感謝だろうか、詫びだろうか、それとも腹を切って死ぬべきだろうか。
「──いつまで私はこうしていればいいのかしら。拾って頂戴」
しびれを切らして、紅蓮が二人を見上げてそう言葉を放った。
『は! はい!』
小夜は人形の形態模写をしているように動かず、園美と葵はなるべくそのやんごとなき聖体に手を触れぬよう、文房具を拾い集めた。
その異様な光景を、通り過ぎる生徒たちが横目で見ていく。しかし、皆それを見えなかったのように足早に通り過ぎていった。
やっとのことで二人が文房具を筆箱の中にしまい終えると、小夜はゆっくりと立ち上がってパンパンと体をはたいた。
「あ、あの……有難うございました」
二人は腰を直角に曲げて最敬礼をする。
小夜は二人が顔を上げるのを待って、まだ蓋の閉じていないそこへ手を伸ばした。
「お礼として、このペンは頂いていくわ。いいでしょう?」
有無を言わさず、紅蓮はクマのシャープペンシルを手にして、ロングヘアをマントのように翻らせて去っていった。
ぼうっと、その姿が小さくなって、やっと二人は金縛りのような状態からもとに戻った。
「園美。これは、ちょっとまずいかも」
「ううーん」
二人はそれからクラス替えの貼り出しを見た。幸運なことに園美と葵はまた同じクラスになったが、先ほどの椿事のせいで心から完全に喜ぶことはできなかった。
放課後。始業から早速部活があるという葵を置いて、園美は小夜にきちんと謝りに行くことにした。
「あれ、でも紅蓮様ってどこのクラスだっけ」
どこか抜けている園美だった。
「失敗したわ」
「馬鹿ねえ」
小夜は、生徒会室として機能している別棟の通称「内裏」にいた。
生徒会の議場として機能する会議室のほか、紅蓮・白蓮の執務スペース、簡単なキッチン、他校の訪問者を迎える応接室、それに休憩用として寝室まで備えてあった。
大正時代に建設されたという煉瓦造りの「内裏」は学校の施設というよりも、館であり、ちょっとした城でもあった。
小夜と相対しているのはもうひとりの蓮、白蓮の菊村《きくむら》ほのかだった。
小夜がすらりと背が高いのに対して、白蓮は百五十センチ前後と小柄だった。髪もショートヘアで、無邪気に笑うさまは小学生の男子にも見える。
ただし身体のメリハリは大きく、体全体を見て男と間違うことはありえなかった。胸は制服を高く押し上げ、大きな影を作っている。
そのサイズが九十センチを超えているのは、本人と、親友である小夜、そして小白蓮である文代しか知らなかった。
「ずっと目をつけていたのに」
「馬鹿なんだよねえ」
小夜が「ずっと目をつけていた」相手とは、園美のことだった。園美が入学したころから、小夜は園美のことを気にかけていた。
今日でも、坂の下からずっと一定の距離をあけて観察するように見ていたのだった。園美のために何かをしたい、その気持ちがあふれて今朝の奇矯な行動に現れた。
「でも、下着が見られたのは唯一の収穫かしら」
「馬鹿だねえ」
小夜は生徒手帳にも園美の写真を忍ばせている。入手先は、行事ごとに撮影される卒業アルバム用のスナップで、内容を確認するという名目でデジタルデータから自分用にピックアップしていた。
「馬鹿馬鹿いわないで。十分わかっているのだから」
「パンツ見れたんだから、とりあえずオナったらいいじゃん。家に帰るか、そこの部屋行ってさ」
ほのかは奥の寝室を顎で差す。
「そんな……はしたないこと出来ると思って?」
「じゃあボクと今してるのは何なの」
「これは……友人とのコミュニケーションよ。握手みたいなもの」
「ふーん」
ほのかは、小夜の頭を撫でた。
その小夜は、机の上に座ったほのかが広げた太ももの間に顔をうずめている。
「あなたはいいわね、お相手がいて」
小夜は手を上下する。
その手に握られたものは、ほのかの股間から伸びる張りつめた肉の勃起だった。
「ん……いいよ、小夜……。でもさ、小夜がモタモタし過ぎなんだよ。ボクらも三年だよ? もう一年しかないんだから、精々楽しまないとさ。その園美って子でもいいし、他の子でもさ」
「園美以外は考えられない」
「あら一途なこと。じゃ、なおさら……ぁふぅ、こんなに上手なのに、っく、もったいない」
ほのかの猛った肉棒を、荒ぶる神を鎮めるように口で、唇で、奉仕する。
しかし、男神は怒りに赤く火照り、さらなる巫女の奉仕を要求する。血管を浮き上がらせ、まだ足りないと打ち震え、先端から雫をにじませた。
「ふんむ……あむぅっ、ほのかの、おっきひぃ、園美にも、こんな淫らなモノが、ふぁ、む、んむ、できるのかしら」
つぷ、ぶぷっ、ぷ、ちゅぷ。
湿度の高い、空気の出入りする音を立てる。口内の粘膜を、ほのかの無防備な亀頭に密着させようと、口をすぼめ、頬の内肉でも刺激する。
「できるのは、小夜かもしれないよ。あぅ……ふあ、そこ、あ、好き、ボクすきぃ、そこつぷつぷされるぉ、すひぃぃっ」
なぜ、ほのかの股間に男性器がそそりたっているか。そして、園実や小夜にもそれが現れるかもしれないという話をしているのか。
それは、校内にあるひとつの社が持つ、不思議な力の賜物だった。
桜大路学園では、「縁《えにし》」という制度がある。学校として強制的なものではないが、生徒どうしがペアをつくるというものだった。原則としては、学年が違う二人での組となる。
違う学年での友人はできにくいものだが、学園でそれを奨励することで、同学年だけでなく、縦のつながりを作ろうとするものだった。
年長者は年少者にさまざまなことを指導し、また年少者も身の回りの些事などを手伝うことで相互に利益があった。
それが長じ、同性ながらも愛を育むことにもつながった。今では、「縁」のペアのほとんどが愛人関係だ。
ここで、先述の社の話になる。
その社の前で告白をして「縁」を成立させたペアは、その片方に男性器が現れる。ただし、それは必ずではなく、お互いが心から相手を受け入れ、望んだときに限られるのだった。
したがって、ただ単に男性器を欲して偽りの告白をしたところで、それは望んだ結果にはならない。
当時は二年だった白蓮のほのか、そして小白蓮ではまだなかった一年生の文代。告白はほのかからだった。そして文代は受け入れた。結果として男性器が現れたのは、ほのかのほうだった。
ほのかが「もう一年しかない」と言っていたように、「縁」は年長者が学園を卒業したと同時に解消し、その時点で男性器も消える。「縁」はこの学園在学中の特殊な関係でしかないという証でもあった。
だから、小夜が園美と「縁」を結んで、そういう関係になったにしても、チャンスは小夜の卒業までの一年足らずということになる。
「ふぁぁぅ、もう、ん、出しちゃっていい? 小夜の口の中で、んっく、ボクのちんぽ、もう限界ぃぃっ」
「んんっ、出る? 出ちゃうの? いいわよ、ほのかの熱っいの、私の口に、いっぱい吐き出して」
小夜は、そうして口に放出されるほのかを待ち受ける。いつでもその時が来ていいように、ほのかの屹立した赤い巨塔を口ですっぽり包み込んで離さず、ときに大きく、ときに細かく雁首の部分を前後する。手も休まず、ほのかの尻を撫で回したり、女性の部分に手を這わせている。

ぷっ、くぷぅぅっ、ずっ、じゅぅっ、ぷっぷ、つぷ、つっぷ。
「んふぁあああっ! 小夜ぉ、小夜、で、っでっるぅぅぅぅう!」
どぅぅっつぷっ! ぶっぷっつう! びっぶびゅう! びゅ、ぶぶっびゅっ。
肉棒が跳ね、放たれる汁が舌を、口内を、のどの奥を叩きつける。こぼれぬように、小夜は口をすぼませるが、それでもわずかな隙間から漏れ出て、あごまでの一筋の線となって垂れる。
高価な薬のように、口内に放たれた熱い汁を大切に飲み干していく。どろどろとした半固体の白濁液を、ほのかのモノを咥えたまま、舌を使って器用に咽喉へと送った。
「ん、んっくぅ……うっく」
「っふあぁ……、小夜、まだ出る」
ぶっぷ、つとうっぷ、とっぷ……。
勢いはだいぶ収まったものの、小刻みにほのかの雌棒は鼓動のようにトク、トク、と痙攣し、先から雫を撃ち出していた。
やっとのことで、余震のようなその雫まですべて嚥下すると、ほのかの雌棒を口から離し、最後にあごに垂れた汁を舐めとった。
「よかったよ、小夜」
「濃かった……ね。なんかゼリーみたいだった」
「いや、春休みがあったしね。間があいてたから。……じゃあ、ボクも今度はお返しをしなきゃ。ほら」
ほのかは、小夜の腰に手を回し、机に手をつくように促す。机はそう高くないため、おのずと腰を突き出すような格好になる。
「私は、別に……」
そんな曖昧な抵抗の言葉は耳に入らぬとばかりに、ほのかの手は遠慮なくスカートの中に侵入し、熱をもった場所にたどり着く。
「なんのなんの、こちらはその気ですよ」
「ん、んぁ……ん」
指が滑るように滑らかな生地のショーツ。その布地が一番細まる場所。そこはこんもりと丸みがあり、湿気と熱気を発散していた。
指を押し込むと、粘りのある汁が布地を通してあふれ、ほのかの指を湿した。
「挿入れるのは、やっぱりだめなのかな?」
「だって……最初は」
「そうそう、園美ちゃんにしてもらうんだったね」
まだ気持ちを伝えてすらいない相手に、義理立てする小夜をおかしくも思ったが、ほのかは彼女の気持ちを大切にしている。
このような遊戯は小夜とほのかの間で、この「内裏」の中で何度となく行われてきたが、ほのかの雌棒を小夜に挿入したことは一度もなかった。
「じゃあ……こうしよう」
ほのかは小夜のスカートをまくりあげると、ショーツを尻が完全に出てしまうまでずり下ろす。
そこでショーツを止めたまま、ほのかはぴったりと腰を押しつけた。
「え……なに?」
ほのかは上向きになっている雌棒を水平に押し下げ、その砲口を小夜の熱源へと向ける。
「ここで、可愛いがりっこしよう」
ちゅっぷう、つっぷつ。
ショーツと小夜の陰唇が結ぶ露の幾本もの筋。それを断ち切るかのように、ほのかの雌棒が突き入る。
じっとりと蜜を含んだ小夜の陰唇が、唇を這わすように、ほのかの雌棒を濡らした。
「ふっぅぁ、すっごいぬるぬる……」
「っく、んんっふぅ」
発散する熱が、お互いの性器を灼く。
くっぷ、つぷ、っぷぅ、ちゅぷ。
ほのかがいっぱいに腰を突き入れると、また肛門付近まで引き、また突くという動作を繰り返した。
ほのかの雌棒は肛門を撫で、陰唇をねぶり、少しく顔を出し始めている陰核を槍の穂先のような雁首で弾いた。
「ん、んんぅ、へん、へんなのぉ、うっふぁ、はぅっふぁ、あっぐっ、へんな声でるぅう」
むずがゆいようなもどかしい肛門、大胆に弄ばれる陰唇、体の奥に鋭くしびれるような陰核。それらの異なった刺激の波状攻撃に、小夜の理性の壁が崩れていく。
「ボクも、ぃいのお、声……いっぱい出して、小夜のやらしい声、んっ、いっぱい、聞かせてっぇええ、あん」
そこへ、コツコツと足音が近づく。その主は最後にカツ、と小気味よい音で踵を揃えた。
「お楽しみのところ失礼しますが」
ホルダーに挟んだ書類を、ほのかに押し付けるように差し出したのは、小白蓮の梅沢文代だった。
制服をお手本のように、寸分の隙もなく戦装束のように装備している。
髪は後ろでゴムでひとつにくくり、長く背中に垂らしている。そのゴムも黒く、飾り気がまるでない。
目が悪いのか眼鏡をしているが、それも銀縁のシンプルなもので、まるで人の見た目を気にしていないように思える。
その割に、眼鏡のレンズの奥はくっきりと絵のようにすっきりとしたアーモンド形のラインを描いている。
ナイフのように鋭い鼻梁、きりりとひきしめられた口元まで、計算しつくされたように整っていた。
「んっ、っふぁ……無粋な娘ね。知ってるけど」
「わたくしも承知しております。今日中に決裁していただきたく。読み上げましょうか」
「ああっ、いぃ……んっく、オーケー。それでいいから」
「読んでおられないでしょう。来月の菊桜会《きくおうかい》の会場と関連する予算についてです。わたくしは白蓮様に一ヶ月前からお渡ししていましたが、今日が先方に返答申し上げる期限になっています」
菊桜会とは、近隣にある菊理院《くくりいん》という学校と桜大路との連絡・親睦会のことで、定期的に行われていた。菊理院も女子校で、お互い歴史も深いためこのようなやりとりが行われていた。
「あ、明日、んんぁああああ、ぬるぬる気持ちいぃい」
「その言葉をそのまま先方にお出ししますが。『あ、明日、んああ、ぬるぬる気持ちいい」と』」
律儀に文代はメモにまでとる。
「それは、うっくぅ……あんっ、いくらなんでも……」
トントン。
控えめだったが、外と通じるドアのほうからノックの音がした。
さすがに、ほのかも腰の動きを弱めてそちらを向く。
「お待ちください」
文代は落ち着いたもので、ほのかと小夜の行為など何も知らないようにドアへと向かい、開けた。
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