輝乃と理恵 遠く離れて 1/2
理恵は大きな戦いを前にしていた。
まだ敵の正体ははっきりとわからない。だが、明日向かうところでそのキーマンと思われる人物と接触する。戦いが起こることは自明だった。
何度も理恵は危ない局面は切り抜けてきた。メルをはじめ仲間に助けられ、知恵を絞り、傷を負い、なんとか打ち勝ってきた。勝利はすなわち生存で、敗北は死だった。
それでも理恵がいままで戦い続けてきたのは、自分たちにしかできないことを為そうとする、同じ運命を背負った仲間たちとの絆だった。そこに理恵はかけがえのない幸せと充実を感じていた。
それでも恐怖は残る。
常識では計り知れない相手との戦い。そもそも人間ではないことが多い敵の能力は想像もつかない。努力してどうしようもないものには、いつまでも恐怖するしかない。
恐怖は理恵の頭の中で暴れまわり、弱気の言葉となって意識にのぼる。
紛らわせる術はないわけではない。ささいなこととしては、ゲームをしてみたり、本を読んだり、家事のような手を動かす作業をすることで、その間は恐怖が皮膚を侵食するような感覚から逃れられた。
それでも振り切れないときは、淫欲に身を浸した。人の肌で抱かれ、慈しみをもって身体を愛撫されることだった。
ともにする相手は、こういうことに関してもパートナーである守護天使のメルであり、彼氏に近い関係の毛利栄であったり、同性ながらもそういう意味で理恵を慕ってくれている竹中智であった。
決して理恵が軽いわけでなく、みんな理恵が心から信頼をする相手だった。だからこそ身体を交え、形はそれぞれ違えど愛を与え合うことが出来た。
理恵はかつてない恐怖と不安を前に、回遊魚が産まれた川に戻るように、初めて身体を交わらせた相手を求めていた。
携帯電話を取り、画面に電話帳を呼び出す。「浅井輝乃《きの》」を選んでコールした。耳には当てずに、ワンコールで切る。これは約束事だった。
姓が同じ男性。理恵の弟だった。
向こうでは、理恵に電話をかけてきてもいい状況ならかけなおしてくる。
理恵の輝乃の近親の交わりはその現場すら見られなかったものの、異様な親密さは母親に疑惑を抱かせるに十分だったようだ。遠まわしにそういう行為をしていないかと尋ねられ、理恵は当然否定した。
理恵は進学とともに、実家を離れることにした。
親にばれてしまうという最悪の事態を避けるのもあったし、そんな関係がずっと続けられるとも思っていなかった。
後に理恵は、母だと思っていた人物が実母の妹であったことを知る。すなわち両親は叔母の夫妻で、その息子である輝乃は従弟《いとこ》にあたる。法律的には婚姻も問題がない。
だがそれは公になっていないことで、その説明は理恵がなぜ不思議な力を持つに至ったかにも関連する。輝乃にもそれは知らせなかったし、実質的に姉弟ということは変わらなかった。
そんな経緯によって、大っぴらに電話ででも直接会話をすることは憚られた。輝乃は理恵から渡された携帯電話を常にマナーモードにしていて、その存在は両親には隠していた。
まだ返事は来ない。
理恵は準備をして待つ。
制服姿が好きだという輝乃のために、着替えはしない。実家に居たときも、二人が学校から帰って両親が外に出ているときは、輝乃は制服のままでの交わりをせがんだ。
そうした同じ日の夜に、どちらかが部屋を訪れて、声を立てないように注意しながらベッドをともにすることもあった。
その回数は両手では数え切れない。お互い性については芽生え始めたところで、それが満足以上に満たせる相手をすぐ近くに見つけてしまったのが不幸だった。今になって思うが、血縁的には正確な姉弟でなかったことが、本能的に禁忌の意識をもつことを妨げていたのかもしれない。
ショーツだけ新しいものに穿き替えた。飾りのあまりない、木綿の白いショーツ。これも輝乃の好みだった。
理恵は次にクローゼットの奥から、輝乃とのこれからのやりとりに使うもののセットを取り出した。
輝乃の写真数枚。家でのスナップ。家族で出かけたときに二人で映ったもの。最後に身体を交えたときに撮った、輝乃の性器や、二人が結合している部分、二人の裸体。
そして、その写真を参考にして、輝乃のものに一番似たものを購入したディルドー。男性器を模した、張形だった。
このディルドーは実際にものを見ずにインターネットから通販で買ったものだが、あらゆる点で理恵は気に入っていた。
まずこういうものにありがちなケバケバしい色でなく、自然な色と小ぶりなリアルな大きさで、輝乃の若々しいペニスと容易に重ね合わせることができた。
素材が少しソフトなものなので、焼ける鉄棒のようなあの熱と硬度は味わえないものの、自分で扱うには無理な角度にもできる柔軟性があるほうが都合良かった。
それに加えて、このディルドーにはひとつギミックがある。
内部に実物のように管があり、タンクとなるところに液体を入れることができ、そこにつながった蛇腹のポンプを握ることで、その液体がディルドーの先端から射出される。
簡単にいうと、射精ができるディルドーだ。
中に入れる液体はなんでもいいのだが、理恵はローションに乳性飲料を混ぜたものを使う。リアルにするには澱粉ノリを使うとか生卵を使うとかいろいろあるようだったが、手軽なのと安全面を考えた結果ここに落ち着いた。
いそいそと材料を取り出し、混ぜてできた白い液体をディルドーの中に仕込む。
これがけっこうたっぷりと入る。陰嚢の部分がそのタンクになっており、小さなコップの半分程度の量を納めることができた。
いとおしくその部分を両手で包んで輝乃からの電話を待つ。
人肌にあたたまったころ、理恵の携帯電話が"ファンタジーゾーン"のテーマを奏でた。このポップな音楽はただ一人のみに設定されている。
「こっち、オーケーだよ。お母さんも出かけてしばらく帰ってこないし」
心なしか早い口調のようにも聞こえる、輝乃のやわらかな声。
メルは納めている状態で、こちらも一人だった。
「ん、じゃあ、しようか」
声だけのやり取り。ただし伝わってくる息遣いや物音でそれ以上の情報は伝わる。
鼓動の早さ、シーツとの衣擦れ。
約四百キロ離れた空間を越えて、それが伝わる。
輝乃の部屋。家の中には彼しか居ない。
ふんわりとした長い髪が、少女を思わせる。輝乃は髪型を理恵に近づけたかった。そうすることで、鏡を見ることで理恵を思い出すことができると考えていた。
輝乃はベッドの上に座っていた。このベッドでは理恵と何度も一緒に横になり、ときには声を殺し、ときには獣のように声をあげて性の交歓をした。
カーテンをすべて閉め、理恵と同様にこの行為のためだけの準備をしている。
やはり写真を持っているが、デジタルカメラの写真をA4用紙いっぱいに出力したものを、クリアファイルに入れて写真集のようにしている。
理恵がディルドーを用意しているように、輝乃も理恵の性器の代替となるものを用意していた。ゴム素材の肌色の円柱、大きさや形が少し違うものが2本。いわゆるところのオナホールであり、理恵がディルドーを注文するときに同時に買って送ったものだった。
二本なのは輝乃の要望であり、片方はアナルタイプのものをということだった。
理恵との行為の際、輝乃はそれが決められたことであるかのように、理恵の肛門の中で果てたがった。輝乃の考えの中では避妊の一環でもあったが、それ以上に理恵の肛門に締め付けられての射精は、何ものにもかえがたいものだった。
理恵が安産型の下半身がしっかりとした体型だったからか、輝乃の執拗な「お尻に入れさせて」という要求は、早くに受け入れることが出来た。
それがゆえに理恵自身も肛門で得られる快感については早くから目覚めていた。
二つのホールには既にローションがまぶされている。ノーマルなものには濡れやすい理恵の性器を模して、たっぷりと。アナルタイプの細いほうには、口のところに少しなぞる程度に。
「お姉ちゃんは、まだ、脱いでないの」
「うん、まだ……でも、もう濡れてきてる」

理恵が自分の秘部をのぞきこむと、先ほど履き替えたばかりのショーツには、縦に長く葉っぱの形に濡れた染みがもうできていた。
輝乃のほうのホールとシンクロしたわけでもないが、どちらも挿入への準備は充分だった。
「僕、もう……パンツ脱いで、手でしてるよ。お姉ちゃんも」
「う、うん。でもまだ、下着の上から、するね」
見えない自分の行為を、相手に伝えるために言葉にする。自分が相手を想って、性器を弄っていることを告白する。
性器への刺激に加え、その羞恥が、欲の火を次第に大きなものに燃え上がらせていく。
「いまね、お姉ちゃんの写真、見ながら、んっ、してるの。お姉ちゃんの、顔、みてる」
輝乃の見ている写真は、理恵の中学時代の制服姿だった。その写真の中の理恵に、見せびらかすように自身のこわばったものをしごく。紅潮した亀頭と、はにかんでいる理恵の笑顔を並べると、より手の中で堅さを増した。
「私も、輝乃の、見てる。はぅっ、ん。輝乃、可愛いよ、輝乃っ」
理恵はショーツを引っ張りあげ、紐状にしてところで秘部を擦りあげた。一人で慰めるときにも、こうするのが彼女のお気に入りだった。指でするよりも、布地が擦れる感覚が好きだった。
たとえ好みの愛撫とはいえ、肉芯に灯された淫欲の火は、もっと大きくなろうとして燃料を求める。膣奥がうずき、濡らしているのは何のためかと叱咤する。若い肉体の抗議に負け、理恵は雫が滴りそうにまでぐしゃぐしゃになったショーツを脱いでベッドの下へ投げた。
「お姉ちゃん、ねえ、僕、入れたいよ。お姉ちゃんと、くっつきたい」
輝乃はノーマルなホールを手にして、性器が模されたびらびらの部分に亀頭を擦りつけていた。たっぷりと塗られたローションが、むきたての果物のような輝乃の亀頭をより艶やかにする。
「うん、私も。ちょっと待ってね」
理恵は傍らのディルドーを手に取り、その砲塔を自らの淫花に向ける。こちらは天然のローションが蜜壷から滴っており、挿入の手助けは必要ない。人工の性器の先端が、理恵の露に濡れた肉弁に口づけた。
「──っ、いいよ。入れて、輝乃の」
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